2012年1月15日日曜日

Fama and MacBeth(1973)(2)

Fama-MacBethの1段階回帰では、1段階目は個別銘柄単位で行うが、2段階目はポートフォリオ単位で行う。具体的には、1段階目で得られたβが高い順に個別銘柄を並べ、上位から順番に等銘柄数で20個のポートフォリオを作成する。つまり、βが同じくらいの水準の銘柄でポートフォリオを組む。そのポートフォリオを用いて、2段階目の回帰を行うことになる。正確には、ポートフォリオを構築に使用するβと、2段階目の回帰で使用するβは測定期間を変えていたりするのだが、細かな技術的な話なので割愛する。

これは、観測誤差(errors-in-variables)問題に対する対処のための手法だ。観測誤差の問題というのは、通常の回帰分析(OLS回帰)を行う際に、説明変数に観測誤差が存在する場合、推定される係数が過小評価されるバイアスが発生する問題のことだ。つまり、2段階目の回帰に使用するβの誤差が大きい場合、推定されるリスクプレミアムγ1は過小評価されてしまう。そして、1段階目の回帰は変動の激しい個別銘柄リターンを使用して算出するため、必然的に推定されるβの誤差は大きい。

こうした技術的な問題を回避するために、2段階目の回帰はポートフォリオ単位で行う。各ポートのβは、そこに含まれる銘柄のβを平均したものなので、個別銘柄βの誤差が相殺されてポート単位では誤差が小さくなる。分散投資によって、個別銘柄のアンシステマティックなリスクが相殺されてゼロに近づくのと同じ理屈だ。

ただし、ポートを組むと誤差が減って統計的には望ましい性質が得られるものの、個別銘柄の情報を20個のポートに単純化してしまうので、多くの情報を捨てることになる。データに加工をほどこせばほどこすほど、きれいに整形されて統計的には望ましい性質が得られるが、その分生データが持つ情報は失われることになる。このトレードオフのバランスを取った方法がFama-MacBethが採用した手法というわけだ。(尚、この手法を最初に考案したのはFama-MacBethではなく、Fisher Blackらの1972年の論文だが)

初期CAPMの実証で確認されている、βのリスクプレミアムであるγ1が理論で想定されるよりも低いという結果は、観測誤差の問題によって引き起こされているのではないか?というのがこの手法が考案された背景だ。

では、Fama-MacBethのテスト結果を見ていくことにする。γ2とγ3は、概ね0に近い結果が得られており、これらの係数が0であるという仮説を統計的に棄却できないという結果となった。回りくどい言い方だが、要はCAPMと整合的な結果ということだ。解釈が微妙なのは残り2つのテストだ。まず、βのリスクプレミアムであるγ1は、統計的に有意にプラスとなった。ここまではいいのだが、その水準は株式インデックスの超過リターンと比較すると低くなっており、結局、先行研究同様、βのリスクプレミアムは低すぎる、という結果となっている。最後に、切片項γ0=無リスク利子率という仮説だが、テストの仕方によって結果が変わってしまっており、仮説はデータからはサポートされなかった、というような記載となっている。

結論部分では、「要約すると、CAPMが示唆する重要な関係を支持するような結果が得られた」というような前向きな記載となっているが、技術的な洗練や検証の網羅性はあるものの、結果の傾向自体は先行研究同様、「高βのリターンが低すぎるし、低βのリターンが高すぎる」というものだった。

ここまでがFama-MacBeth(1973)の概要だが、最後に、何故このFama-MacBethの手法がその後デファクトスタンダードになったのか、という点について、実務的な観点からコメントをしておきたい。

まず、この手法は、その時点での過去の情報のみを用いてポートフォリオを構築するため、現実の運用で実行可能だという点が挙げられる。つまり、ある時点でポートフォリオを構築する場合、その時点から遡って5年分のデータを用いて算出したβを使用しているため、実際の投資戦略に応用可能なのだ。論文中にも、学術的な観点でのテストだけでなく、実際の投資への適用可能性も考慮した手法とした旨の記載がある。あまり多くを確認したわけではないが、初期のCAPM検証では投資戦略には応用不可能なものが多いため、学術的な正確さと実用性のバランスが優れた手法と言えると思う。

二点目は、βの時系列の変動を捉えることができる点だ。Fama-MacBethの手法では、1年毎に過去5年分のデータを使用してβを再算出している。βは時系列で比較的安定しているとはいえ、その時々の経済状況や、その企業の成長や衰退に伴って、βの水準は変化する。そうしたβの構造変化を表現できるのがメリットだ。

結局、きれいな結果が出たとは言い難い論文だが、その試行錯誤の過程で考案された手法が、後世の実務・学術両面で大きな貢献をしている。例え望むような結果が得られなかったとしても、そこに至るまでの過程で生み出された副産物に意義があることもある。そう考えると、多少勇気づけられる気はしないだろうか。

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