2012年1月22日日曜日

ゼロベータCAPM(2)

前回はゼロベータCAPMの導出を説明したが、導出の流れ自体は特段難しい話ではないだろう。ただ、この理論の経済的な含意や実際の投資への示唆は何かと問われたら、どのように答えるだろうか。

安全資産がある世界でのCAPMの場合、理論が前提としている仮定は非現実的なのだが、導かれる結果は、それなりに我々の経済的な直感に合うものだ。例えば、「全ての投資家は、安全資産と市場ポートフォリオのみを組み合わせて保有する。そしてこの2資産の比率は、投資家のリスク許容度に応じて異なる。」という二基金分離の結果は、確かに現実の投資家はそれに近い行動を取ることもあるな、と思わせる内容だ。

だが、ゼロベータCAPMの場合、前回の説明を聞いただけでは、その種の納得感を得ることはできない(少なくとも私はできなかった)。そもそも、市場ポートフォリオと無相関のゼロベータポートフォリオとは、我々が現実に投資をする際にはどのような資産に該当するのか、全くイメージが沸かない。正直なところ、ゼロベータポートフォリオというのは、安全資産のあるCAPMを導出する過程での中間生成物で、それ自体に大した意味はないのだ、とも思えてくる。

このような分かりにくさは、まずリスク資産のみの世界でゼロベータCAPMを導出し、その後安全資産があるCAPMに拡張する、という流れで説明することに起因している。実際に考案された順序は、通常のCAPMが先で、ゼロベータCAPMが後なのであり、ゼロベータCAPMは、初期CAPMの実証結果で確認されていた理論と現実との乖離を埋め、より現実の世界に適合するように修正を加えたCAPMなのだ。

初期CAPMの実証では、βのリスクプレミアムが低すぎる、つまり高βの銘柄のリターンは低すぎるし、低βのリターンは高すぎる、という結果が得られていた。この結果の最も素直な解釈は、「市場ポートフォリオ以外にもリスクファクターがあるのでは?」というものだと思う。シングルファクターで説明できないのであれば、マルチファクターを疑うのが自然だ。この発想で、裁定価格理論(APT)の登場よりも前に、CAPMのマルチファクター化の検討を行っているのが、ゼロベータCAPMの原論文とほぼ同時期に発表されているBlack, Jensen, and Sholes(1972)の実証研究だ。次回は、このBJSの内容についてもう少し詳しく見ていくことにする。

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