2012年1月14日土曜日

Fama and MacBeth(1973)

それでは、Fama and MacBeth(1973)が行った検証の概要を見ていくことにする。60年代に実施された初期のCAPM検証では、高βの銘柄はCAPMが示唆する水準よりもリターンが低く、低βの銘柄はリターンが高い、という理論と整合しない結果が報告されていた。「低βアノマリー」などと呼ばれることもあり、今日でも原因の明確な特定には至っていない、古くて新しい話題だ。

あまり厳密な話ではないが、直感的な連想としては、2000年代後半に株式運用の世界で流行する「最小分散ポートフォリオ」や「低ボラティリティ戦略」と根は同じ話だと考えることもできる。そう考えると、運用・投資の業界というのは、過去幾度となく行われてきた議論が現代の文脈に合わせて語り直されているだけであるとも言える。

ビジネス上の観点からすると、過去の議論を丁寧に紐解くことで、将来のビジネスチャンスを予測することができるかも知れないという点で有益だし、純粋な投資の観点からすると、市場というのは結局、シンプルで少数の原理原則に従って動いている、ということを知ることができる点で有益だと思う(原理原則を理解することと、市場で上手く振舞えることは別問題だが)。

Fama and MacBethが行ったのは、βの推定→βのリスクプレミアムの推定、という2段階回帰である点は先行研究と同様だが、その技法に洗練が見られる。推定は以下の式で行う。

\setlength{\baselineskip}{14pt}

r_{it}=\alpha_{i}+\beta_{i}r_{mt}+\epsilon_{it}

r_{p}=\gamma_{0}+\gamma_{1}\beta_{p}+\gamma_{2}\beta_{p}^2+\gamma_{3}\sigma_{p}+\eta_{i}

以前のエントリーで紹介した、初期CAPMの検証方法と最も異なる点は、2段階目の回帰がポートフォリオ単位だという点だ。何故ポートフォリオを用いるのか、という理由やポートフォリオの構築方法は後述する。riは個別銘柄のリターン、rpはポートフォリオのリターン、rmは市場ポートフォリオを表す株式インデックスのリターンだ。βpは各ポートフォリオに含まれる銘柄のβの平均値、σpは各ポートフォリオに含まれる銘柄の、1段階目の回帰で得られた残差εの標準偏差を平均したものだ。

1段階目の回帰で各銘柄のβと、εの標準偏差σを推定する。その後、1段階目の回帰で得られたβを用いて、βの高い順に銘柄をグループ分けして20個のポートフォリオを構築する。そして、二段階目の回帰をポートフォリオ単位で行い、γ0、γ1、γ2、γ3を推定する。これらの推定値を用いて、以下の3種類のテストを行う。

テスト1:リターンとβの線形性の確認
CAPM成立していれば、βと証券リターンは比例関係にあるはずである。つまり、x軸をβ、y軸を証券リターンとして、各銘柄をプロットすると、右上がりの「直線」が引けるはずである。ただし、もしβが大きい方が証券リターンは高いという傾向があったとしても、βが非常に高い一部の銘柄のリターンが高いが、それ以外の銘柄には明確な傾向が見られない可能性もある。その場合、βとβ^2を同時に説明変数に含めて回帰をすると、β^2の係数がプラスとなり、βの係数は0に近くなる筈である。要は、βとリターンの関係は直線なのか、二次曲線なのか、という確認だ。CAPMが成立していれば、γ2=0となる筈である。

テスト2:他のリスクファクターが存在しないことの確認
このテストでは、一段階目の回帰残差の標準偏差σが、リターンと関係がないことを確認する。もし、市場ポートフォリオ以外にシステマティックなファクターが存在する場合、一段階目の回帰ではその影響を取りこぼすことになる。そして、その取りこぼしたファクターの影響は残差部分に残る。そのため、残差の標準偏差が大きい銘柄というのは、欠けている未知のファクターの影響を大きく受けている銘柄である可能性がある。そのため、σの係数であるγ3が0でない場合、市場ポートフォリオ以外のリスクファクターを見落としている可能性が高い。

テスト3:βのリスクプレミアムが正であることの確認
CAPMに従えば、βのリスクプレミアムγ1は0以上で、しかも市場ポートフォリオの超過リターンとなる筈である。そのため、γ1と株式インデックスの超過リターンが一致しているか確認を行う。

テスト4:切片項=無リスク金利となっていることの確認
CAPMに従えば、βリスクを負担せずに得られるリターンは、無リスク金利分のみである。そのため、切片項γ0が無リスク金利と等しくなっているか、確認を行う。

以上がFama and MacBethがテストした内容だ。細かいことを言うと、他にも市場の効率性(ポートフォリオの効率性ではなく、効率的市場仮説の文脈での効率性)のテストも行っており、時代背景を感じることができて興味深い。ちなみに、1970年前後は効率的市場仮説の検証も盛り上がりを見せており、Famaは主要な提唱者の一人だ。完全に余談だが、FamaのPh.Dの論文は効率的市場仮説に関するものだったらしい。効率的市場のテストの部分は、CAPMの説明からは逸れるので、ここでは触れないことにする。

次回は、何故個別銘柄単位ではなくポートフォリオ単位なのか?という点や、上記テストの結果について説明していく。

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