2012年1月7日土曜日

CAPMを救え

1960年代の最初期のCAPMの実証結果は以下のようなものだ。

・βのリスクプレミアムγ1は、市場インデックスの超過リターンと比較して低すぎる。そして、γ0がプラスになってしまう。つまり、低β銘柄のリターンは理論が示唆する水準よりも高く、逆に高β銘柄のリターンは理論が示唆するより低くなってしまう。

これはCAPMの成立を主張するには厳しい結果だが、この結果は以下の二通りの解釈が可能だ。

一つ目の解釈は、CAPMの理論は正しいが、前回説明した二段階回帰での推定方法に問題があるというものだ。初期のCAPMの実証には株式の個別銘柄リターンが使用されているが、個別銘柄のリターンは標準偏差が大きく、1段階目で推定されるβの測定誤差は大きい。その測定誤差の大きいβを二段階目の推定のインプットに使用した結果、推定したγ1が真の値よりも小さく推定されるバイアスが発生する。いわゆる観測誤差(errors-in-variables)の問題だ。この観測誤差の問題により、真の値と比較してγ1が低くなり、その分γ0が高く推定されてしまう。

この観測誤差の問題を解決するために計量的な手法を洗練させ、CAPMは成立している(原論文はもう少し微妙な書き方をしているが)という結論を導いたのが、Fama and MacBeth(1973)だ。彼らが用いた計量的な手法は、その後の資産価格理論の実証研究のデファクトスタンダードとなった。ファクターモデルの推定にGMM(一般化モーメント法)を用いるのが一般的になった今日では、やや古風な感はあるが、それでも直感的な理解のし易さ、実行の手軽さなどメリットの多い手法だ。

そして二つ目の解釈は、「投資家は制限なく無リスクレートでの借入・貸付が可能」というCAPMの前提条件が妥当ではない、という解釈だ。現実の市場では、投資家は無リスクレートでの借り入れは制限されているため、その現実を理論に織り込み、「無リスクレートが存在しない世界」を想定してCAPMを再構築すると、上記の実証結果を整合的に解釈できると主張したのが、Black(1972)のゼロベータCAPMだ。

計量的手法の洗練と、理論の再構築。以後は、対照的な方法でCAPMを救おうとした二つの先行研究をみていくことにする。

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