2012年1月21日土曜日

ゼロベータCAPM

次は、1972年にFischer Blackによって考案された、ゼロベータCAPMに話題を移そうと思う。正直に告白すると、初めてゼロベータCAPMを学んで以後、私は長らくゼロベータCAPMが良く理解できなかった。もう少し正確に言うと、やっている数学的な操作は理解できるのだが、この理論のどこに意義があるのか、また何故こう表現すると嬉しいのかが理解できなかったのだ。

単に学者が自己満足で数式をいじって理論と称しているだけで、実際は大して意義などないのではないか。そう思いたいところだが、この理論を考案したのは他でもないFischer Blackだ。きっと自分には理解できない深遠な含意があるに違いない、などという、どうも釈然としない感情を長らく抱いていた。その後、私自身は、ゼロベータCAPMの原論文と、その理論と対をなすBlack, Jensen, and Sholes(1972)のCAPMの実証研究の論文を読んで、この理論の意義をようやく(自分なりにではあるが)理解できるようになった。

結論を急がずに、まずは標準的な教科書でゼロベータCAPMがどのように説明されているか確認していくことにする。

まず、安全資産が存在しない世界を考える。全ての投資家は平均-分散的な意味で効率的なポートフォリオのみを保有する、といった他のCAPMの仮定は成立しているものとする。

この世界では、全ての投資家は効率的フロンティア上の任意のポートフォリオを保有する。安全資産が存在しないので、全ての投資家が単一のポートフォリオ=市場ポートフォリオを保有する、という結論は導けない。リスク許容度の大きい投資家はフロンティア上のリスクの大きなポートフォリオを保有するだろうし、リスク許容度が小さい投資家は逆になる。

ちなみに、細かな用語の話になるが、効率的フロンティアと最小分散フロンティアの違いを説明しておく。期待リターンが与えられた時、そのリターンを最小の分散で実現するポートフォリオの集合が、「最小分散フロンティア」だ。ファイナンスに触れたことのある方ならお馴染みの、横軸にリスク、縦軸に期待リターンを取った座標平面上の、放物線を横にした曲線だ。

ただし、この曲線の下半分のポートフォリオには、合理的な投資家は投資しないだろう。何故なら、曲線の上半分には、同じリスクでより高いリターンを獲得できるポートフォリオが存在するからだ。そのため、投資家が保有するのは曲線の上半分のみだ。この上半分を、「効率的フロンティア」と呼ぶ。

恐らくこれが正確な定義だと思うが、本によってはこの二つを区別せずに効率的フロンティアと表記しているものもある。私もこの部分に特にこだわりはないし、使い分けないと説明が混乱するわけでもないので、「効率的フロンティア」で統一する。

話が逸れたが、この安全資産がないCAPMの初期設定のもとでは、任意の効率的フロンティア上のポートフォリオを二つ選択して足して作ったポートフォリオは、それ自身もフロンティア上に位置する、という結果が得られる。これは初期設定から数学的な操作をするとそういう結果が得られる、というだけなので、そういうものか、と受け入れて頂いて問題ないと思う。重要なのは、この結果から、市場ポートフォリオがフロンティア上にあるという結果が導ける点だ。

つまり、

① 全ての投資家はフロンティア上のポートフォリオを保有する。
② フロンティア上のポートフォリオ同士を足して作ったポートフォリオもフロンティア上にある。
③ 市場ポートフォリオとは全ての投資家のポートフォリオを合計したものである。


という三つの条件より、市場ポートフォリオはフロンティア上にある、という結果が導かれる。これが一つ目の重要な結果だ。

次に、上半分の効率的フロンティア上の任意のポートフォリオを選択した場合、それと無相関のポートフォリオが、フロンティアの下半分の曲線に必ず1つ存在する。これもCAPMの初期設定から数学的な操作で導出される。そして、更に数式をいじると、フロンティア上側の任意のポートフォリオの期待リターンをRp、下半分に見つかる無相関のポートフォリオの期待リターンをRzとすると、個別証券の期待リターンRiは以下の式で表現することができる。

R_{i}-R_{z}=\beta_{i}(R_{p}-R_{z})

これが第二の結果だ。言うまでもなく、見慣れたCAPMの期待リターン式にそっくりだ。ここで、Rpはフロンティア上の任意のポートフォリオなので、市場ポートフォリオはフロンティア上にあるという第一の結果より、Rpは市場ポートフォリオの期待リターンであるRmで置き換えることができる。

こうして導出されるのがゼロベータCAPMだ。その後、安全資産を導入し、ゼロベータポートフォリオを無リスク金利で置き換えると通常のCAPMになるという流れが、標準的なCAPMの説明なのではないかと思う。

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