2011年12月25日日曜日

リスクプレミアムはどこからくるのか(2)

「モデル」とはデータの入力と出力のフォーマットが定義されている箱のことだ。そして、「理論」というのは、入出力のフォーマットと、箱の内部での処理を記述したルールのことだ。箱をシステムと言い換えてもいいかもしれない。書名は失念したが、昔読んだシステム開発関連の本では、「そのシステムを理解するための最短の方法は、まずインプットとアウトプットの定義を把握することだ」という記載があった。ファイナンスのモデルを考える場合にも全く同様のことが言える。では、CAPMというモデルの入力と出力はなんだろうか?

入力データ:
この世に存在する全ての資産の期待収益率、現時点での各資産の真の価値、各資産の期待収益率の分散共分散、無リスク金利。

出力データ:
個別資産のβ、市場ポートフォリオの期待収益率。


入出力はこれだけだ。そして、各データ間には必ず以下のような関係が成立する。

個別資産の期待収益率-無リスク金利=個別資産のβ×(市場ポートフォリオの期待収益率-無リスク金利)

ここで、期待収益率-無リスク金利をリスクプレミアムと定義すると、以下のようになる。

個別資産のリスクプレミアム=個別資産のβ×市場ポートフォリオのリスクプレミアム

つまり、個別資産のリスクプレミアムは、唯一のリスクファクターである市場ポートフォリオに対する感応度βによってのみ決まる、というシンプルな関係が導出される。リスク=βが大きければ大きいほど、市場ポートフォリオのプレミアムが増幅され、個別資産のリスクプレミアムが増加する。

ここで、もう一歩踏み込んだ問いを発してみることにする。

「市場ポートフォリオのリスクプレミアムはどこから来たのか?」

例えば、市場ポートフォリオのリスクプレミアムが5%だったとしよう。何故、それは4%でも6%でもなく、5%なのか?と問われたら、どのように答えるだろうか。その問いに答えるために、上記式の右辺を分解して戻してみる。

市場ポートフォリオのリスクプレミアム=市場ポートフォリオ期待収益率-無リスク金利

まず、無リスク金利はモデルへのインプットとして与えられるため、CAPMという理論は無リスク金利の水準(仮に1%としよう)に対しては無言であり、何故他でもない1%かという問いには答えてくれない。次に、市場ポートフォリオ期待収益率だが、これは価値額から算出したウェイトで個別資産の収益率を加重平均したものだ。そして、その個別資産の価値額も収益率もモデルの外部からインプットとして与えられたものだ。結局、何故リスクプレミアムが他でもない5%なのか?という問いに対しては、CAPMは「あなたがそう入力したから」としか答えてくれない。

つまり、CAPMは個別資産の価格を市場ポートフォリオの価格で説明する、言わば「価格で価格を説明する」、「価格間の関係を記述した」理論である。ここにCAPMの功績と限界が同時に表現されている。CAPM以前の資産価格の研究は主に、過去の価格から将来の価格を予測できるか、といった「時系列での価格間の関係の記述」だった。そして、CAPMは、同時点での市場ポートフォリオと個別資産間の価格の関係を示し、「同時点(クロスセクション)での価格間の関係の記述」という新たなパラダイムを切り開いた。時系列からクロスセクションへ、というパラダイムシフトが功績であり、依然として価格間の関係の記述という枠組みに留まったことが限界だ。

少し熱が入りすぎているので一旦切ることにする。

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