2011年12月25日日曜日

CAPM(4)

二つ目の、「一期間」の期待効用最大化モデルである、という点について見ていこう。例えば、以下のような前提で投資家が意思決定を行っているのがCAPMの世界だ。

投資家は初期時点で100万円の資金を渡され、その全てを危険資産か安全資産のいずれかに投資しなければならない。そして1年後、全ての資産を換金して全額消費する。その後のことは考えない。現時点で、1年後の危険資産の期待リターンとリスクの予想を行い、1年後の消費から得られる効用の期待値を最大化するように行動せよ。

言うまでもなく、この前提は現実に即していない。我々の人生は他期間で、常に現在の消費の効用と、現在の消費を諦めて貯蓄や投資に回し、将来消費した場合に得られるであろう効用を比較し、人生全体で期待効用が最大化するように行動している。・・・はずである。

CAPMはそうした他期間のダイナミズムを敢えて捨象し、投資家の意思決定を単純な一期間のモデルに単純化したものだ。この単純化は自体は優れたモデリングの判断だと思うが、やや物足りなさを感じるのも事実だ。

やや主観混じりの整理となるが、CAPMの登場以後、資産評価モデルはマルチファクター化の流れを辿ることになるが、その理論的根拠は大別すると2つにわかれる。一つは、無裁定条件を前提とし、リスクと期待リターンの関係を簡潔に記述した裁定価格理論(APT)である。無裁定条件というのは、市場ではリスク負担なしでリターンを得ることはできない、という前提条件のことだ。APTの特徴は、CAPMの様な多くの仮定を積み上げて構築された理論ではなく、より少ない仮定でシンプルにリスクと期待リターンの関係を記述していることだ。ただ、CAPMのような市場や投資家行動に対する仮定が少ないということは、経済的な示唆が少ない理論であることも同時に意味する。具体的には、APTは、リスクファクターがどのようなものかという点については何も語っていない。「リスクファクターが特定できたと仮定すれば」、リスクと期待リターンはこのような式で記述できます、という変換公式に過ぎない。言わば、「使用法はユーザーに委ねられた、使い勝手の良い空の箱」がAPTなのだ。

そして、もう一つが、マートンの他期間資産評価モデル(ICAPM)を理論的な根拠とする流れだ。ICAPMは、CAPMの他期間への拡張と言って良いモデルで、APTと比較して経済的な含意に富む、そしてそうであるが故に前提条件の多いモデルだ。ICAPMの場合も、投資家の他期間での期待効用最大化行動の結果、資産の期待リターンがマルチファクターで表現される点はAPTと同様だ。ただし、そのファクターは、投資家がヘッジしたいと感じるリスク要因である必要がある。残念ながらこの部分は私の理解力・表現力の問題で上手く説明するのは難しいが、直感的な説明としては、以下のようなものだろうか。(言い訳をさせて頂くと、ICAPMは元々の理論が抽象的なので説明が難しい)。

「投資家が将来の消費から得ることができる効用は、景気悪化・インフレ・金利変動といった、経済全体の動向に左右される。投資家には、こうした経済環境が変化するリスクをヘッジしたいというニーズが存在する。例えば、景気悪化をリスクと考えた場合、投資家は景気悪化時にも自分の消費水準を維持するために、景気悪化時にもリターンが良好ないわゆるディフェンシブ銘柄を好んで購入するだろう。こうした、ヘッジ目的で構築されたポートフォリオをヘッジポートフォリオと呼ぶ。景気悪化ヘッジポート、インフレヘッジポート、というように、ヘッジポートは投資家がヘッジしたいと考えるリスク要因の数だけ存在する。こうした複数のヘッジポートフォリオが、資産の期待リターンを説明するリスクファクターである。」

やや話が逸れてしまった。APTとICAPMについては、いずれ詳細に説明を試みたいと思う。

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