2011年12月25日日曜日

CAPM(1)

資産価格理論とは、ある特定の資産のリターンの発生原因を説明する理論のことだ。理論的には特に資産は株式に限定していないが、実証研究は株式で行われているものが主流なのではないかと思う。資産価格理論の中でも学術・実務双方で最も有名なのは、Capital Asset Pricing Model、通称CAPMだ。少しでも投資やファイナンスに関わったことのある人にとっては、改めて説明するまでもないシンプルなモデルだ。

私が初めてCAPMを知ったのは、証券アナリスト試験の受験勉強時だったと思う。個別証券のリターンは市場ポートフォリオとの連動性であるβによって説明される、という記載を見て、「なんだ、ただの単回帰か」と思って特に何の感銘を受けなかったと思う。TOPIXなどの株価指数は市場の景況感を表すので、その動きに個別株が影響を受けるのは直感的に当然のことで、わざわざ仰々しく理論にするほどのことでもないだろう、というのが率直な感想だった。素人目には、CAPMよりもデリバティブの価格付け理論のような物の方が「高度で知的刺激がある」対象であるように思えた。典型的な素人の感想であり、当時よりは多少ものが分かるようになった今振り返ると、若気の至りと言う他ない。

前置きが長くなったが、私は以下で、CAPMが何故革新的だったか、その説明を試みようと思う。一実務家の半ば思いこみに基づいた記載なので、当然学術的な厳密さはないし、網羅的でもないが、雰囲気が伝われば幸いだ。

まずは、 リスクファクターという概念の導入について。

CAPMが登場する以前の証券リターンに関する研究は、主に「過去の株価の情報を使用して将来の株価を予測できるか」という実証が主だった。いわゆる、効率市場仮説が市場では成立しているかどうかを検証する作業だ。効率的市場仮説についてまともに語ろうとすると、それだけで相応の分量になるのでここでは割愛するが、結果は、「日次/週次くらいだと株価には正の自己相関があるが、月次くらい長くなると統計的には相関があるとは言えない」というものだったと思う。極端な言い方をすれば、CAPM以前の実証研究は、チャート分析の延長のような分析をしていた。

そうした状況下で、CAPMは、「個別でばらばらに動いている証券のリターンを説明する共通の要因が存在する」というフレームワークを初めて導入した。この「共通の要因」がリスクファクターであり、CAPMのような1ファクターモデルの場合は、市場ポートフォリオのリターン、後述するFama-Frenchの3ファクターモデルのようなマルチファクターモデルの場合は、マーケット・サイズ・バリューの3つのリスクファクターとなる。このリスクファクターの概念の導入以後に作られた資産価格モデルは、基本的にこのフレームワークを用いたものである。

今となっては単純で何の革新性も感じられないシンプルなモデルだが、本当に考え抜かれたものは事後的に見るとごくごく当たり前のことを言っているだけの単純なものに見えるのが世の常だ。この単純さこそが、CAPMが傑出した仕事であることの証左であると言えるだろう。また、この「個別の証券リターンの動きを、たかだか数個の共通ファクターで説明する」というフレームワークは、実務面においても非常に強力なツールとなった。この点については、後述するBarra型リスクモデルの部分で説明する予定だ。

次回も引き続きCAPMの説明となる予定。

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