2012年6月30日土曜日

「為替にリスクプレミアムはない」は真実か?(1)

伝統的な資産運用の文脈では、為替取引はゼロサムゲームで、リスクプレミアムは存在しない。そのため、為替リスクはヘッジコストが0であればフルヘッジすべきで、コストが発生する現実の運用では、ヘッジコストとのバランスを考慮してヘッジ比率を決めるべき、というような議論がなされる。

この辺はあまり詳しくないのだが、外国株式の場合、為替リスクと現物株式リスクを比較すると後者の方が大きく、コストを払ってまで為替リスクをヘッジするメリットに乏しい。その一方、外国債券の場合は、現物資産のリスクが株式と比較して小さいため、ファンド全体に占める為替リスクは大きくなる。そのため、株はヘッジなしでいいが、債券はヘッジすべき、といった主張がなされることがある。

一方、個人投資家に目を向けてみると、昨今では(という程昨今ではないが)FX取引がギャンブル感覚で普及しており、そのリスクに警鐘を鳴らす意味で、良く「為替にはリスクプレミアムがない」という主張がなされる。この種のFX取引は短期売買中心で、ギャンブル感覚で時として過剰にリスクを取る傾向があるため、そうした行為を念頭に置いた発言だと思うので、これはこれでその通りだと思う。

だがこの、「為替にリスクプレミアムはない」という良く知られた教科書的事実は、果たしてそこまで自明なものだろうか。この点について考えるのが、本投稿のお題である。

一般的に、「為替にはリスクプレミアムがない(ゼロサムである)」と主張される際には、「株式または債券のような資産にはリスクプレミアムがある(プラスサムである)」という主張がセットとなる。そして、後者にリスクプレミアムがある理由として、「事業に対して資金を投下し、その対価として実体経済から得られた利益の分配を受けるため」というような説明がなされる。要は事業リスクの対価ということで、直感的には、まあそうかなと思わせる説明ではある。

ただ、実体経済のリスクを取っているのでプラスサムである、という主張は、やや論理に飛躍がある気がするし、社会に出て世の中の事情に多少なりとも触れると、ナイーブに過ぎる気もする。そもそも、「リスクプレミアム」という概念はあまりに一般的だが、その意味するところを肌感覚で理解するためには相応の熟慮と経験を要する気がする。少なくとも私の場合、運用関連の知識と経験が増えれば増えるほど、この概念のことが分からなくなっていくし、この単語を使用する際の慎重さも増してゆく気がしている。

以後、数回に分けてこのテーマで投稿していきたいと思う(流動性もゼロベータも忘れたわけでは決してないが)。最終的には、リスクプレミアムの有無、ゼロサム/プラスサムという切り口で投資資産の選択を行うことは、リーズナブルではあるが必ずしも現象を正確に捉えたものではなく、時として本質を見誤る可能性がある、ということを主張する(多分)。

まずは、頭の整理のために、「株式にはリスクプレミアムがある」という考え方を順を追って確認することにする。

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