2012年6月24日日曜日

「流動性」とは何か

流動性とは何か、と問われたらどのように答えるだろうか。多少なりとも投資に関する知識がある場合は、市場での出来高=流動性、という回答をすぐに思い浮かべるだろう。実際に、市場での売買株数を発行済株数で除したターンオーバーレシオという指標が最も頻繁に利用される流動性指標だと思う。

ただし、流動性指標としては、このターンオーバーレシオの他にも、少し調べただけでも、アスクビッドスプレッド、無取引日数比率、ILLIQ、Kyleのλ、デプス等々、実務でも使えそうかどうかはさておき、様々な流動性指標が存在する。まずは、これらの具体的な指標が代理しようとしている、「流動性」なる概念の定義を確認してみる。以下、教科書からの引用である。

効率的な資源配分を達成するには、価格発見をして、本源的価値で取引を行う必要がある。しかし、価格発見は容易ではなく、価格と本源的価値とが乖離する可能性がある。本源的価値では取引できないかもしれないが、「取引したいときに容易に取引できる」または「取引したいときに取引機会が十分に提供されている」とき、流動性(liquidity)が高い、と言われる。
「株式市場の流動性と投資家行動」早稲田大学大学院ファイナンス研究科(編)

要は、「取引したい時にすぐに苦労せずに相手方が見つかる」ということだろうが、「本源的価格では取引できないかもしれないが」という留保が引っ掛かる。結局のところ、相手方が見つかるか否かは価格条件に大きく依存する。もう少し具体的な記載を探してみる。

流動性には三つの側面、①取引したいタイミングで取引できるか、②より低い取引費用で取引できるか、③必要な数量を取引できるか、の側面がある。それぞれ、①即時性(immediacy)、②タイトネス、③デプスの問題とよばれる。これらには、以下のようにトレードオフがある。
<出典は同上>

※取引費用の定義は多様であると前置きした上で、「取引費用=本源的価値と約定価格の差」と定義している。本源的価値の定義を説明しだすと紙面が足りなくなるのでしないが、一言で言うと、「観測不能なその銘柄の真の価値」のことである。

教科書に記載の通り、これらの3つの側面は互いにトレードオフの関係があり、そのトレードオフを考慮して、最適な執行バランスを実現するのがバイサイドトレーダーの職務である、と定義すると実態に近いように思う。例えば、前述のターンオーバーレシオが高い銘柄の場合、①の即時性と③のデプスは(一般的には)問題にならないため、執行時には②のタイトネスにのみ注力すればよいので、相対的に流動性管理が容易である。

一方で、アクティブファンドで市場出来高が少ない小型株を大量に購入したい場合、マーケットインパクトをかけないように少しずつ分割して複数日に分けて執行するため、②と③のトレードオフを考慮しながら少しずつ買っていくことになる。この場合、根気良く購入していくのが前提なので、①のタイミングについては初めから妥協している。ただし、あまり時間をかけて長々と執行していると、市場参加者の注目が集まって機を失してしまうリスクもある。そのため、②③のトレードオフのバランスを取りつつ、①にも目配せ、という相応に難易度の高い執行になる。

また、インデックスファンドで、ベンチマークイベントに合わせて執行するような場合、①と③にはかなり強い制約が課せられることになる。ベンチマーク変更時点に合わせて執行しないとトラッキングエラーが発生するため、①を満たすのは必須だし、ベンチマークのウェイトと同水準のウェイトまで売買する必要があるため、③の数量確保も必須である。そのため、①③を満たすことのしわ寄せが②に来て、指数のウェイトが大きく変化する銘柄の価格がイベント日近辺で歪むというのが、国内海外問わず、一般的なベンチマークイベントの特徴だ。そのため、ベンチマークイベントに関する売買においては、①③の制約をある程度緩和し、②のダメージを軽減する微妙なさじ加減が要求される。

上記のように、流動性管理、執行コスト管理と一口に言っても、ファンドの性質や目的に応じてトレードプランはかなり異なってくる。流動性に対する理解を深めることで、こうした精度の高い執行コスト管理が可能となる。これが、流動性の研究の実務への応用可能性の1つである。そしてもう1つは、流動性は市場のシステマティックなリスクファクターの1つであり、流動性リスクに対して投資家は正のプレミアムを要求する。そのため、流動性リスクの高い銘柄は平均的にリターンが高い、というものである。こちらは、流動性は株式の期待リターンに影響を与えるというものだ。これについては後述する。

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