2012年6月26日火曜日

システマティックファクターとしての市場流動性

ちゃんと調べなおしたわけではないので、かなり昔の記憶と想像に頼っているが、流動性と株式リターンの関係について記載しておく。機会があれば、後で調べ直して正確に記載し直すかもしれない。まず、もっとも一般的な考え方は、流動性に難のある資産はいざというときに換金できないリスクがあり、その分投資家は流動性リスクプレミアムを要求するため、取得価格がディスカウントされて高リターンが期待できる、という考え方だろう。これは株式だけに限らない。

しかし株式の場合、アセットプライシングの文脈で、上記考え方とは微妙に異なる解釈がなされることがある。「市場全体」の流動性をシステマティックなリスクファクターとみなし、そのファクターには正のプレミアムがあるという考え方だ。個別銘柄の流動性ではなく、市場全体の流動性がファクターだという話なので、前述の議論とはニュアンスが異なる。

考え方は以下のようなものだ。市場全体の流動性は、市場環境によって変動する。好景気なときは売買が活況で流動性が向上するだろうし、不景気なときは逆に流動性が細る。もし、リターンが市場出来高と順相関する銘柄と、逆相関する銘柄とがあった場合、伝統的なファイナンス理論が想定するリスク回避的な投資家は、どちらの銘柄を好むかというと、後者を好む。

これは、市場環境が悪化するときに一緒にリターンが悪化する銘柄はヘッジにならないので需要されない、という考え方だ。逆に、市場流動性が細る局面でリターンが底堅い銘柄は、投資家のヘッジ需要があるため取得価格が上昇し、平均的にリターンは低くなる。もう言うまでもないかもしれないが、これは、「投資家は将来の投資機会の変動をヘッジするためのヘッジポートフォリオを需要する」というICAPMの枠組みによる解釈だ。

同じくICAPMのヘッジポートフォリオだと主張されているバリューファクター(HML)、サイズファクター(SML)に加えて、この流動性ファクターを追加したファクターモデルが提案されたりもしている(Pastor and Stambaugh, 2003)。Fama-Frenchの3ファクターと比較すると知名度的には劣るが、PSファクターなどと呼ばれる、アセットプライシングの世界ではメジャーなファクターだ。

こういう簡略化をすると厳密な方には怒られるかも知れないが、ICAPMの枠組みを利用してファクターを提案する場合は、「景気敏感株=高プレミアム、ディフェンシブ銘柄=低プレミアム、何故ならばディフェンシブ銘柄にはヘッジ需要があるから」という理屈を用いる。その上で、「投資家がヘッジしたいと考える「投資機会の変動」を、よりよく表現する変数を見つけました、と主張することになる。その変数が、HMLだったり、SMBだったり、上記の市場流動性ファクターだったりするわけだ。

流動性に関する先行研究には、上記のような伝統的なアセットプライシングに絡めたものから、マーケットマイクロストラクチャー領域のものまで相応に多様なので、もうしばらく先行研究を見て行きたいと思う。

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